お知らせ

投稿日:2011年03月28日||投稿者:JES事務局

東日本大震災被災者へのお見舞いと人間工学の役割
-日本人間工学会からのメッセージ-

 被災された皆様へ
 一般社団法人日本人間工学会は、この度の東北地方太平洋沖地震により、犠牲になられた方々とそのご家族の皆様に衷心より哀悼の意を表するとともに、被災地の皆様をはじめ関係者の方々に心よりお見舞い申し上げます。
 2011年3月11日午後2時46分、地球規模でみても稀なマグニチュード9.0という巨大地震が東北地方太平洋沖で発生しました。引き続く大津波や数々の大きな余震に加え、福島第一原子力発電所の事故等々、数多くの被災者や被害の大きさと事故の悲惨さは国際社会をも驚愕させています。未だ予断を許さない状況が続いていますが、被災地の皆様の安全と生活が確保されることを心よりお祈り申し上げます。

 人間工学と私たちの役割
  日本人間工学会は、1964年に設立されました。東海道新幹線が開業し、東京オリンピックが開催されたのが同じ1964年のことです。我が国の高度経済成長や工業化社会の発展等を背景として、私たちは今日まで、快適で効率的な社会をつくり続けてきました。しかし、このたび多くの人々が筆舌に尽くし難い大災害に遭われているという現実は、豊かなエネルギーに支えられた現代文明のありようを根本から問いかけています。今なお正確な人数が把握されていない数多くの犠牲者に加え、被災地域における食物や飲料水の深刻な欠乏、物資運搬に欠かせない物流経路の破壊、被災者の移動や緊急支援もままならない自動車燃料の不足、被災者集団の存在すら外部から知ることができない情報網の遮断等々のあるなかで、寒冷環境にばく露され、なお冷静に耐えている人々を目の当たりにし、営々と創り上げてきた情報通信技術や発電所等の巨大プラントを基盤とした社会構造が脆弱であることを改めて認識させられています。大自然を制御することはできないなかで、自然と共生し、困難な安全対策を確立するために、私たち関連学協会等が全力を傾けることが必要と考えています。

過去に学ぶこと
 私たちは、被災地域を復旧し復興するために微力ながらも役立ちたいと思い、人間工学と学会が果たせることを実行したいと模索しています。人間工学にできること、さらに人間工学を学び実践する者の社会的責任を過去に学ぶことができると考え、学会誌「人間工学」創刊号からすべての論文が電子公開されている独立行政法人科学技術振興機構のJournal@rchiveを読みなおしてみました。「人間工学」 では、1985年の日本航空123便墜落事故や翌1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故等々、次々と起こる巨大なシステム災害発生を契機に、安全におけるヒューマンファクターを主題とした特集号を発行しています。特集号では、日本人間工学会と学術会議との共催企画として、軌道系交通システムやプラント安全管理等の多岐にわたる論点のなかで、原子力発電所の安全と人間工学を記述している論文があります。日本原子力発電(株)の板倉哲郎氏による講演を掲載した1987年23巻4号195-200頁がそれです。論理的に事実を記載したこのような優れた論文が「人間工学」にあるなかで、私たち人間工学を学ぶものは、今回の原子力発電所事故をはじめとする被災に対し目に見える役割を果たすことができていません。報道による断片的な情報に頼る現段階では軽々な推測は控えますが、ある意味では予見された、福島第一原子力発電所におけるあまりにも深刻な今回の事故を防止するために、学術団体として実践的な貢献ができなかった含意を繰り返し反芻しています。

 今後の新たな社会づくりに向けて
 人間工学に関係する国際社会からも、大震災に対する心からのお見舞いとともに、困難に直面している日本と共にあるというメールが数多く寄せられています。国際人間工学連合(IEA)会長の Andrew S. Imada 氏からは、この度の大災害に遭遇して日本の方々がみせている冷静沈着な行動及び忍耐と勇気から、被災地が復興できることを信じて国際社会は連帯しているという応援メッセージが送られています。元IEA会長で兵庫県芦屋市に在住されている杉山貞夫氏からは、ご自身の阪神・淡路大震災での体験から、人間工学が関与すれば今回の被害がより少なかったのではないか、とのコメントが寄せられています。
 大被災で失われた人々の生活環境を取り戻し、産業再生へ向けて回復する方策が見通せない現時点では、先ずは被災地を復旧し復興することが最も優先される国家的使命でしょう。私どもとしては、人間工学ができることを真摯に追求し、安全で安心できる新しい文化と価値体系を創造することにより、今まで以上に素晴らしい社会として我が国が発展して行くことを祈念し、日本人間工学会からのメッセージと致します。

 2011年3月25日
一般社団法人日本人間工学会 理事長 斉藤進


 


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